その後、彼女とは3ヶ月くらい続いたでしょうか。
彼女とは、いつしか、逢ってはセックスをするだけの間柄になってしいました。
する場所は、私の車の中かホテルでした。
私は彼女とは、そんな“間柄”だと思っていました。
彼女と別れる少し前のことです。
妻の妊娠と、私の父親の癌が発覚しました。
私としては、彼女とこれ以上付き合えない状況になりました。
でも彼女は、頑として私の申し出を聞き入れませんでした。
「別れたくない。迷惑にならないようにするから、洋平君のことが好きなの、お願いこのままでいて……」
彼女は何度も「別れたくない」を口にしました。
彼女は私と違う想いを抱いていたのかもしれません。
でも、やはり逢う頻度が減り、逢っても会話は少なくなりました。
あれは彼女との最後の日でした。
そのときは最後になるとは思っていませんでした。
私の車の後部座席でした。
二人とも下半身だけ裸になって窮屈な体勢で、私が上になって、動いていました。
そのときは、コンドームもなく、私はその日は“いかない”つもりでした。
そろそろ“昇って”きたとき、私は動きを止め、彼女から抜こうとしました。
「今日はもう帰ろう。今日はコンドーム持って来てないんだ」
「いやっ、抜かないで! もっと突いて!」
「もう、出そうなんだ。これ以上動いたら出ちゃうよ」
「いやっ、突いて、もっと突いて!」
彼女は真顔で怒ったように私に言いました。
そして、私のお尻を掴み、自分に引き寄せます。
そして同時に自分の腰を私に押し付けます。
彼女のいつものやり方です。
また私の先端が彼女の中で動かされます。
「だめだよ。出ちゃうよ!」
弱気な気持ちが更に射精を早めます。
彼女はかまわず私を引き付け、下半身を動かします。
「百合さん、本当に出ちゃうよ!」
「だめ! 抜いちゃだめ! もっとして!」
彼女は私にしがみつきました。
そして脚では私の身体を囲い込み、引き付けたのです。
私は驚きました。
身動きがとれませんでした。
そして限界が来ました。
「だめだ! 出る!」
「いい! 出してっ! 今日は出してっ!」
彼女がすごい力で私を抱き込みました。
「あああっ! 百合さんっ!」
抜こうとしましたが、抜けませんでした。
だめでした。
私は彼女にしがみつかれたまま、彼女の中に、放ってしまいました。
「ああ……百合さん……なんで……」
それでも彼女の力は弱まりません。
私はあきらめました。
身体を預けました。
困惑と快感の中、私のペニスは何度も彼女の中で脈打ちました。
「ああ……洋平……洋平……」
彼女は、私の名を呼びながら、私のペニスが動かなくなるまで私を離しませんでした。
その後、車内での後始末が大変だったのを覚えています。
あと、家に帰って百合さんの旦那さんが、その“匂い”に気付きはしないかと不安にもなりました。
そして妊娠したりしないかと……。
彼女は、終わった後、微笑みながら「大丈夫……心配しないで……」と私にキスしてきました。
その日彼女に何があったのかわかりませんが、彼女は別れ際に
「じゃ、またね。ありがとう……」
と、いつもと変らない笑顔で私の車から降りました。
そして、それ以来、百合さんとは連絡が取れなくなりました。
あれは、妻以外の女性の中に出した最初で最後の一度きりの行為でした。
そして、妻の中に出したのは……いや、妻との営みも、百合さんと初めて逢った夜が最後でした。
あれから20年が経ちました。
今私は、彼女の歳を遥かに越えてしまいました。
あのときの子供が“桜”です。
もちろん名前は私が付けました。
曲がりなりにも、私を受け入れてくれた彼女への気持ちからです。
妻から疎まれた私は、娘だけを生き甲斐に生きてきました。
そして、手塩にかけて育てました。
その甲斐あって桜は美しく、素直に育ちました。
私の宝です。
「ただいま!」
桜が帰ってきました。
私は、桜の振袖姿をもう一度見ようと玄関に向かいました。
玄関にはもう一人、振袖姿の女の子がいました。
彼女が軽くお辞儀をしました。
「大学の友だちの椿さん」
桜が紹介しました。
「こんにちは、初めまして、菖蒲椿と言います」
「すごいでしょ? 彼女も私と同じお花の名前で、それに名字も……」
私の目は彼女の顔に釘付けになりました。
「……偶然……ゼミで一緒になって……私と同い年で……おうちがお蕎麦屋さん……おうちも近いのよ……」
桜の声がどこか遠くから聞こえて来るようでした。
完
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