「パパ、今から帰るね。友だちも一人連れて行っていいかな?」
12時を少し回った頃です。
娘の桜からの電話でした。
今日は一人娘、桜の成人式です。
東京で一人暮らしをして大学に通っている桜が、成人式に出席するため久しぶりに帰省していました。
市民センターでの成人式が終わったのでしょう。
「うん、いいよ。気をつけて帰っておいで、桜」
私はそう言うと受話器を置きました。
もうあれから20年も経つのです。
私も50歳を過ぎました。
娘が二十歳になった今、思い出される女性がいます。
私が結婚してから妻以外に抱いた女性が一人だけいました。
桜はそのひとにちなんで名付けたのです。
その女性の名前は、百合さんと言いました。
その当時、百合さんは40代前半だったと思います。
彼女は、本名を教えてくれましたが、自分の正確な歳は最後まで明かしてくれませんでした。
名字は菖蒲(あやめ)と言いました。
「結婚したら名字も花の名前になったの…………」
そうおどけて話していたのを思い出します。
あの時、私は30歳でした。
結婚したばかりでした。
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