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俺が“がん”になるとは……。
葛西誠一は病室のベッドの上で、清潔そうな天井を見つめながら、心の中で呟いた。
四十歳の今になるまで、入院したことなどなかった。
毎年の健康診断も“要観察”の項目さえなかった。
健康だけが自慢だった。
仕事が落ち着いた先月、妻に勧められ、二日間の人間ドックに入ったとき、大腸にポリープが見つかったのだ。
精密検査の結果“悪性”と診断された。
内視鏡での手術は困難と言われ、開腹手術を行うことになった。
ただ、ごく初期の段階で医者の話では『百パーセント大丈夫です、とは言えませんが、摘出すれば大事には至らない現状だと思います』というあいまいだが、心配はないだろうとの見方だった。
三日前に入院し、今日これから手術だった。
ベッド脇のテーブルに置かれた小さな猫のキャラクターを模った置時計を見る。
中学生になる娘の美奈が買ってきてくれたものだ。
八時を少し回っていた。
置時計の傍らに電源を切った携帯電話がある。
不安だった。
落ち着かない気持ちでいた。
病気のこと、手術に対する不安ではない。
昨夜、携帯電話が許可されている談話室のブースから良子にメールをした。
『明日手術だ。でも、心配ない』
何気ない報告メールのつもりで送信した後、すぐ電源を切り病室に戻ってきた。
今朝早く、同じブースで電源を入れると、昨日の深夜に良子から返信が来ていたのだ。
『大丈夫。あなたなら病気なんかに負けないわ。明日、会社休んでお見舞いに行くね』
誠一はすぐさまその場で返信した。
『来なくていいよ。家族も来るんだから』
ブースでしばらく待ったが、返信がなかった。
あきらめて病室に戻ってきたのだ。
落ち着かないのは、そのせいだった。
良子と家族だけとは、鉢合わせだけは、しないように祈って……。
病室は四人の相部屋だ。
各ベッドは、天井から吊るされたカーテンで仕切られるようになっていた。
誠一は出入り口に近い方のベッドだった。
カーテンをぐるりと回して、足元だけを開けている。
足の向こうに見える患者は、カーテンを全開にしてテレビを観ていた。
ドラマの音声がここまで届いている。
携帯電話に手を伸ばそうとしたときだった、担当の看護師が入ってきた。
「おはようございます。葛西さん。お熱計りますね」
入院したときから毎日担当している看護師だった。
胸の名札には『田宮』と書いてある。
二十代後半に見えた。
デジタル体温計が渡された。
若く見えたが、躊躇なくてきぱきと処置をし、自分の仕事に対する自信が窺われた。
しかし、その分余計な会話がなく、少し冷たい感じを受ける。
身体の線が細く、顔も細面だが目が大きく、薄い唇の端が尖って見えるのが尚更、つんとした印象を誠一に与えた。
髪は巻き上げ、清潔そうな綺麗なうなじが見えていた。
「今日の具合はどうですか?」
「いや、特に変わったところはないです。普通です」
「そうですか」
彼女は腕時計を見た。
「今日は午後一時半からの手術の予定です。ごめんなさいね。今日は朝もお昼も食事できなくて……」
そう言いながら、誠一の右手首の内側に、人差し指と中指を揃えて少し力を入れた。
脈を計っている。
冷たい指先だった。
「わかっています。大丈夫です」
そんなことは大したことないような口調で答えた。
彼女は唇の端を少し持ち上げ微笑んだが、すぐさま唇は元に戻った。
わずかに顔を近づけ、誠一の瞳を覗き込む。
大きな瞳だった。
そのときだった、足元のカーテンの隙間から顔を覗かせる者がいた。
「良子!」
思わず、声を出してしまった。
「来ちゃった……」
良子は年甲斐もなく舌を出し、いたずらを見つけられた子供のようにおどけて見せた。
良子は誠一と同じ歳だ。
「じゃ、あとで先生からの説明があります」
看護師は何の関心もないという顔で、事務的にそう言い残すとカーテンから出て行った。
「ふーん、きれいな看護婦さんね。手出したりしてないでしょうね?」
良子とは、もう五年くらいの付き合いになる。
「ばかなこと言うなよ……それより、早く帰った方がいい」
「わかってる。奥さん来るのね……ふふっ、あなたの奥さん見てみたいわ……」
本気とも冗談とも取れない口調だった。
良子とは昔、同じ職場にいた。
そのとき付き合い始め、良子は離婚し、会社を辞めた。
辞めたのは四年前のことだ。
「ば、ばかなこと……」
普段、良子にうろたえた姿を見せたことがなかったが、今は違った。
一刻も早く、良子にここから立ち去ってもらいたかったのだ。
「なに慌ててるの……大丈夫よ、言われなくてもすぐ帰るから……でも病気、心配要らないんでしょう?」
「ああ、医者は大したことないと言ってる」
「そう、良かった……」
そう言うと良子は布団のすそから中に手を入れた。
手が、わき腹に触れた。
位置を確かめると、わき腹からへそ、股間へと手を滑らした。
そうしながら、顔を近づけてきた。
「溜まってる? 出してあげようか……?」
股間に置いた手がやんわりと動き始める。
「ばかっ、やめろ、見えるぞ」
小声だが強い口調で言った。
あごで向こう側のベッドを差した。
良子は立ち上がると、足元のカーテンを閉めた。
「これでいいでしょ?」
「いいわけないだろっ!」
また小声でしかりつけるように言った。
「でも、もし手術が失敗したらどうするの? これで最後かもしれないじゃない?……最後の相手は私であって欲しいの……」
これも真意が量れなかった。
「最後だなんて……縁起でもないことを……」
「それにあなたのことだから、入院する前に奥さんとしたでしょ……?」
鋭い目つきで睨む。
「す、するわけないだろっ!」
小声での応酬だった。
誠一は、聞きわけなく迫る良子と、うろたえてばかりの自分に腹が立って語気が荒くなった。
良子がキスをしてきた。
手がまた股間に伸びる。
「大丈夫……すぐ、いかせてあげるから……お願い……」
良子が掛け布団を払いのけた。
パジャマの中に手を入れてきた。
「や、やめろっ!」
「“イって”くれるまで、帰らないわ……早くしないと奥様が来るわよ……」
言い返す言葉が見つからなかった。
しかし、良子の言い分を聞くわけにもいかない。
迷った。
迷ってるうちに良子はパジャマをずり下げた。
ブリーフも太ももまで下ろした。
誠一のペニスが露わになった。
まだ柔らかい棒の部分が握られた。
唇に唇を寄せてきた。
舌が入ってきた。
舌を動かしながら、ペニスをしごき始めた。
焦る。
良子を押しのけようか……。
しかしこのまま引き下がるとは思えない。
良子の言うとおり、早く“イってしまえば”帰ってくれる可能性に高い……。
しかし、今、家族が来たら……。
朝の病室での特異な状況下での行為が、意思に反して興奮をよんだ。
ペニスが急速に反応し始めた。
「良子、やめろ……」
柔らかいぺニスが、良子のいつもの手馴れた指先の動きに合わせ硬度を増していった。
「すごい……すごいわ……」
ペニスはあっという間に完全に勃起した。
今度は力を入れて上下にしごかれた。
早く出さないと……という感情も手伝ったせいもあるが、余りにも早く硬く立ち上がったことが、更に誠一を昂ぶらせた。
下腹部に鈍痛に似た感覚が広がる。
「出して……口でいいわ……」
良子がしごいている先端に唇をかぶせてきた。
手の動きとともに、顔も上下させた。
ううっ……。
もうここまできたら、早く出した方がいいのかもしれない……。
出すか……。
早く。
それに……もう出そうだ……。
誠一は目をつむった。
そのときだった。
「葛西さん」
カーテンの向こうから声がした。
看護師の声だ。
「先生が来ました。いいですか?」
良子はペニスから手と口を離すと立ち上がった。
誠一はすぐさま掛け布団を腰の辺りまで引き寄せた。
「あ、は、はい、どうぞ」
カーテンが開いた。
良子は唇を手の甲で拭った。
看護師がちらと、良子の動作に目をやるのが見えた。
「じゃ、がんばってね……またあとで……」
良子はそう言って、看護師の脇をすり抜けて、カーテンの外に消えて行った。
布団の中は“そのまま”だった。
誠一は上の空で医師の話を聞いた。
早くブリーフとパジャマを引き上げたかったが、ここでその動作をするわけにはいかなかった。
良子は去り、ペニスはしぼんだが、良子によってもたらされた行き場のなくなった鈍痛は居座り続けた。
医師の話の最中だった。
妻の美代子と、中学生の娘、美奈が現れた。
二人とも少し心配そうな表情で入ってきた。
それに反し、誠一は安堵のため息をついた。
医師と看護婦が立ち去り、妻と娘とのたわいない会話が続いた。
しかし、誠一の関心は下半身に向いていた。
今、布団を剥がされれば、むき出しのペニスが見られてしまう。
それも先端からにじみ出た液に濡れた。
美奈がジュースを買ってくると言い、病室を出て行った。
美代子が美奈が出て行ったのを確認すると、カーテンを閉めてから誠一に顔を近づけてきた。
キスをしてきた。
「おいっ!」
誠一は小声でとがめた。
結婚十五年目、四歳年下の美代子とは、今でもそれなりの夫婦の営みはある。
良子の言った通り、入院する前日の夜、美代子と営んだ。
もしかして、これが最後になるかもしれないと思い、それは長時間に及んだ。
もし最後になるなら、自分に触れる女も、射精するために動く女も、美代子になるはずだった。
しかし、良子が割って入ってきたのだ。
そして今、また美代子の舌が入ってきた。
舌を入れながら、彼女の手が誠一の胸に置かれ、それが徐々に下半身に移動してくる。
「おいっ!」
今、良子と同じようなことをされないためにもう一度、叱った。
美代子は少し悲しそうな顔をすると
「わかった……トイレに行ってくるわ……」
そう言い残して、カーテンを開けて出て行った。
誠一はすかさず、ブリーフとパジャマを引き上げた。
深呼吸すると、ベッドに深々と体重を預けた。
これで、やっと手術に集中できると思った。
良子は誠一のペニスを口に含んだ。
最後の相手は美代子のはずだったが、良子が現れた。
最後に唇でペニスに触れたのは良子になった。
そして、そのあと美代子がまた現れた。
最後に唇にキスをしたのが美代子だ。
それぞれが、何かの最後の女になった。
誠一は、その方が良かったのかも知れないと思った。
しかし、股間の鈍痛はまだ完全には鎮まらなかった。
妻と娘が戻り、誠一は努めて明るい話をした。
十一時を回ったときだった。
またあの看護師が訪れた。
ステンレス製のワゴンを押してきた。
ワゴンの上には、何かの処置に必要な器具と容器が載っているようだった。
「それじゃ、葛西さん、これから手術の準備しますね。ご家族の方は談話室でお待ちいただけますか」
看護師は美代子と美奈を促した。
二人が出ていき、カーテンが閉められた。
「じゃ、葛西さん、“ていもう”処理しますね……すみません、本当は処置室で行うのですが、今混み合っていますので、ここでさせてもらいます」
看護師は掛け布団を剥いだ。
「ていもう……?」
「はい。剃毛です。下腹部の毛を剃りますね……じゃ、下だけ脱いでもらえますか?」
「今ですか……? ここでですか……?」
あわてて聞き返した。
「はい」
彼女は顔色も変えずきっぱりと言った。
「すぐ済みますので」
彼女は薄いゴムの手袋をはめ始めた。
はめ終え、動きが止まった。
目が誠一に脱ぐように促している。
拒否する理由が見つからなかった。
誠一はおずおずと、パジャマとブリーフを一緒に下げた。
ペニスの根元までだ。
ペニスは見えないようにした。
下腹部の黒い陰毛が露わになった。
これくらいで大丈夫だろうと思った。
相手は看護師とはいえ、見ず知らずの若い女に自分のペニスを見せることは出来なかった。
彼女は大きめのタオルを手に、腰のあたりにかがんだ。
「お尻、上げてもらえますか?」
言われるまま腰を浮かせた。
彼女は素早く、腰から太ももの下に掛けてタオルを敷いた。
そして、誠一のパジャマとブリーフを一気に太ももまで引き下げのだ。
何も抵抗出来なかった。
それほど予備動作のない素早い動きだったし、それも無表情に行われたからだ。
ペニスがすべて露わになった。
現れたペニスは、通常の大きさに戻っていた。
なぜかほっとした反面、萎えた中年のペニスを若い女に見られているという羞恥心が湧き上がってきた。
彼女を見た。
彼女は誠一の戸惑いなど意に介さないように、処置の準備をこなしている。
小さな円筒形の容器を降り、手の平に上部を傾けた。
白い泡状のものが噴出し、塊を作った。
「ごめんなさい。ひやっとしますね」
その泡の塊を、へその下に塗り始めた。
毛の生えているところに厚めに伸ばす。
冷やりとした感触のあとに、すーすーとした清涼感が広がる。
何回か泡を付け足し、手はペニスのところに来た。
ペニスの根元、陰嚢の付け根と、淀みない早さで塗られていった。
誠一は彼女が塗る場所と、彼女の顔を交互に見ていた。
彼女の表情は変わりはしなかった。
手際良かった。
多分、こんなことは慣れていて羞恥心はないのだろう……。
そう思った。
そう思うことにした。
誠一自身も“変な気持ち”にならないように目を天井に向けた。
そのとき、ペニスの中央部分が指先で持ち上げらるのがわかった。
慌てて顔を下腹部に戻す。
彼女は左手の人差し指と親指で、柔らかい亀頭を掴み、立てた。
指の体温がペニスに伝わる。
朝、脈を計ったときの彼女の手は冷たかったが、今は温かだった。
彼女の大きな目がじっとペニスを見つめている。
そして、持ち上げた棒の裏側の根元にも泡を塗る。
そんなところまで……?
ペニスの根元を清涼感が包む。
もしかして……と不安になりペニスを見つめるが、心なしか太くなった程度だった。
また気を紛らわすように天井を見た。
深呼吸をした。
彼女がトレイからT字型の剃刀を手に取るのが見える。
「危ないから動かないでくださいね」
無言でうなずいた。
へその下に冷たい感触が当たる。
しょりしょりと、刃の滑りとともに毛が剃られていく。
剃られた後に、残った毛と泡の塊は、ガーゼできれいに拭き取られた。
そのガーゼは小さな黒いビニール袋に入れられた。
彼女は同じ動作を何度も繰り返す。
ペニスの近くに来た。
へそから下、ペニスの根元までは毛がなくなり、今まで見たことのなかった体毛のない肌が露出していた。
しかし、付け根には、まだ黒々と密集した毛が残っていた。
明るい部屋の中で見るそれは、自分の身体の一部なのに異様なものに見えた。
「動かないでくださいね」
さっきと同じことを言った。
誠一は複数の意味で深呼吸した
亀頭のくびれた部分に指を回してペニスを垂直に起こされた。
彼女の顔がそこに近づく。
大きな目の真剣な眼差しが、グロテスクな中年のものに注がれている。
こんなに明るいところで、若い女にしげしげと見られたことがあっただろうか?
異常なシチュエーションに、何か変な気持ちになる。
剃刀の刃がペニス当てられた。
上から下に向かってゆっくりと動く。
「痛っ!」
誠一は思わず声を上げた。
「ごめんなさい……まだ毛が柔らかくなってないんですね……もう一度塗りますね」
その目が誠一をちらっと見た。
傷つけたのではなく、硬い毛を無理に剃ろうとしたときの痛みだとわかっているようだった。
「は、はい……」
彼女はまた泡の塊を手の平に持ってきた。
ペニスをまた持ち上げる。
今度はたっぷりと泡を根元に付けた。
その泡をすり込むように右手が根元を円を描いて動く。
何度か陰嚢に触れた。
ペニスを支えている左手に少し力が入った。
柔らかい棒が上に向かって少し引き伸ばされる。
それを手全体で握られた。
親指は亀頭の裏側を押さえている。
誠一はごくりと、唾を呑み込んだ。
上を向いているペニスの根元に、右手の人差し指と親指が回された。
その輪が回りながら上下した。
亀頭の裏を押している親指が何度か場所を変え、持ちやすいところを探して動く。
それが刺激となった。
誠一は“そう”ならないように耐えようした。
何度も深呼吸した。
しかし、意思ではどうにもならなくなっていた。
朝の良子とのことがオーバーラップした。
ペニスは誠一の意思など関係なく、刺激に促され体積を増していった。
それは見る見る大きくなっていった。
彼女もわかってるはずだった。
今は興奮よりも羞恥心の方が勝っていた。
隠したかった。
ただの剃毛処理に欲情し、勃起したなど思われたくなかった。
しかし、誠一は何も出来ず、意志に反して彼女の手の中で太く、大きく育っていくものを黙って見つめるしかなかった。
嵩を増すごとに、彼女の握り方が変わった。
手は棒の中心付近から徐々に先端へと移った。
彼女はわかっている。
今は丸く膨れた亀頭全体を左手でやんわりと包んでいた。
もう力を加えて立たせなくても、良くなったからだろう。
ペニスは垂直になった。
彼女の右手は直径が広がった根元に、まだ泡をこすり付けている。
ペニスは垂直を過ぎ、へその方へ逆に倒れてきた。
手が離された。
ペニスは完全に勃起し、下腹部に付きそうになるまで反り返った。
「す、すみません……」
そう言うしかなかった。
誠一のそんな狼狽にも関わらず、彼女の表情は変わらなかった。
「いいえ、じゃ、剃りますね」
口調も驚くほど変わっていない。
剃刀を手に取った。
ペニスはもう裏側しか見えなかった。
刃が裏側の根元部分に当てられる。
彼女の手は亀頭だけを握っている。
くびれの裏側に親指を当てて。
ペニスの裏側を刃が何ミリか動いた。
彼女の大きな目が、刃の行方を追う。
「痛くありませんか?」
彼女の視線がちらりと、こちらに向く。
「は、はい」
ペニスを勃起させて、紳士的答える自分が滑稽に思えた。
刃がゆっくりと皮の表面を滑る。
それは、ちりちりと、刺激を与えた。
根元まで来た。
刃が離れ、ガーゼで拭き取られる。
刃が動くたび、亀頭の裏側を押さえている親指が、じりりと動く。
痛くなどなかった。
力が抜けそうになった。
心なしか親指は亀頭の裏を何度も上下している。
誠一は顔をしかめた。
勃起は収まるどころか、血流をまだ溜め込こもうとし、心臓の鼓動のように微かに振れていた。
彼女は、その振動を押さえるように亀頭を掴む手に力を入れた。
刃を違う箇所に当てるたび、放しては掴みを繰り返す。
そのたびに指が、くびれを擦る。
良子が作っていった鈍痛が振り返してきた。
誠一の焦りをよそに、彼女は薄い唇をきりりと閉じ、よこしまな感情など微塵も表さず、刃の置かれた場所だけを見つめている。
裏を剃り終え、ガーゼで拭う。
今度は剃り残しのある表側の根元だった。
彼女の手は、ペニスと下腹部の隙間に差し込まれた。
中央から先端にかけて握る。
力を入れて起こされた。
親指の腹が亀頭のくびれに押し当てられる。
その方が、引っ掛かりがあって押さえ易いのだろう。
そのまま足元に押し付けて倒す。
親指がそれに従い亀頭の表面を擦る。
誠一は深呼吸を繰り返す。
倒しながら剃ろうとするが、ペニスの反り返る力に負け、刃を当てられないでいた。
彼女は乱暴に、何度も先端を前に倒そうとした。
そのたびに彼女の親指が亀頭を撫でる。
先ほど良子に促され、出そうというところまで来ていたのだ。
もう“通り道”は出来上がっていた。
鈍痛が中心に集まり始めた。
彼女は、剃るのをあきらめたように手を離した。
ペニスが腹に付く。
手袋を脱いだ。
「すみません。剃りにくいので……」
その言葉の意味がわからなかった。
彼女の手が直にペニスに触れた。
改めて温かいと思った。
右手で、ペニスを起こし、亀頭のくびれの下に指を回して握った。
握ったまま、ゆっくりと下に滑らした。
それに合わせてペニスの厚い皮がずり下がった。
手が根元で止まると、今度は上に向かって動いた。
亀頭の先が、皮で覆われる寸前まで上げられた。
そのとき、先端から透明な液が絞り出されるのが見えた。
また握られ、下げられた。
その上下運動を繰り返した。
美代子も良子も誠一によくするやり方だ。
しかし、二人とは違う指の感触だ。
なぜ、彼女がこんなことをするのか目的が量れなかった。
だが……。
着実に体は射精の体勢に向かっていた。
剃毛処置で、射精するところまで自分が及んでる、とは言えない。
しかし、もうそこまで来ていた。
陰嚢が縮こまり、中身を押し出そうとしているのが、見ないでもわかった。
彼女の左手の動きは同じ動作を続ける。
誠一は目をつむり、耐えた。
だがそれは続けられた。
なぜ、続ける……?
若い看護師の前で、中年の男が射精するわけにはいかない。
耐えた。
そのとき陰嚢に何か温かいものが触れた。
慌てて目を開けた。
彼女の左手が股の間に差し込まれたのだ。
陰嚢が彼女の手でやんわりと揉まれた。
なぜそんなことを……。
揉みながら、右手がペニスの皮をさっきより早くしごく。
若い大きな目がそれを見つめる。
ああ、だめだ!
だめだっ! 出る!
「はぅっ!」
小さく声を上げた。
それと同時に、先端から白い液が一筋ほとばしった。
打ち出されたものは、十センチ近くも上がり、毛の無くなったへその辺りに落ちた。
彼女の手が止まった。
誠一はそれでもまだ耐えようとした。
彼女の手が素早く動く。
しゃかしゃかと……。
「ううっ!」
だめだった。
誠一は目を閉じた。
彼女に擦られたペニスは、どくどくどくっと鼓動し、続けざまに中のものを噴出させた。
吐き出されたものは弧を描き、何度もへその辺りに落ちる。
ああ、なんてことを……。
快感に顔をしかめながらも彼女を見た。
彼女は……。
無表情だった。
驚きも、恥ずかしさも見て取れなかった。
そして軽蔑も……。
唇を閉じ、大きな目で誠一の脈打つペニスをじっと見つめていた。
右手で跳ね返るペニスを力強く握り、左手で吹き出し口にガーゼを押し当てた。
ガーゼの裏側から、粘液が溢れ出てくる。
それは垂れ、握る彼女の指を伝い、乗り越え、根元に溜まった。
その粘度のある流れは、脈打つたびに補給された。
いつまで続くのか……?
それはいままで見たことがないほど大量だった。
誠一は自分の意志とは関係なく、ずん、ずん、と脳に快感を送り込みながら、吐き出し続けるペニスを恨めしく思った。
つんと、精液の臭いが鼻に届く。
なんと声を掛ければよいのか、わからなかった。
ただ、なすがままで、彼女に指の上をゆっくりと流れ落ちる太い筋を見つめていた。
徐々に棒が跳ねる威力が弱まってきた。
放出がやっと終わった。
硬度が落ちてくる。
半勃起になったペニスを握ると、根元から先端に向かって、絞り上げた。
少しだぶついた皮が上へと集められた。
先端の小さな穴から、尿道に残っていた白い液が押し出された。
もう一度した。
「はうっ」
誠一はぶるっと武者震いした。
彼女は手際よく何度もガーゼを取替え、粘液が付いたところを拭っていく。
手が離れた。
ペニスがだらりと倒れた。
彼女は新しいガーゼで自分の指を拭き始めた。
指を広げ、指の股も丹念に拭く。
拭き終わると指を鼻に近づけた。
もう一度拭いた。
こちらを向いた。
柔らかくなったペニスの先を、指先だけで摘んだ。
上へ引き伸ばす。
ペニスはもう柔軟性に富み、その指先の力に従い、伸びた。
彼女はすかさず、下腹部の根元の陰毛を剃った。
剃った毛をまたガーゼで拭き、精液を拭き取ったガーゼとともに黒いビニール袋につめた。
彼女は最後にアルコール染みた脱脂綿を取りだし、今まで彼女が触れた部分を拭いた。
アルコールのひやっとした感触の後に、その部分がじんわりと熱くなる。
「はい。終わりました。履いてくださいね」
誠一がこれ以上ない恥ずかしい思いをしたと言うのに、彼女には平静だった。
やはり何も言えなかった。
取り繕う言葉を言うことさえ、恥ずかしいと思えたからだ。
無言でブリーフとパジャマを引き上げた。
「今からストレッチャーを持ってきますね」
彼女は何事もなかったように出て行った。
程なくして、彼女は他の看護師一人を伴い、ストレッチャーを押してきた。
美代子と美奈も顔を出した。
なぜか二人の顔を直視出来なかった。
言葉も出てこなかった。
この若い看護師の手によって、恥ずかしくも射精してしまったのだ。
彼女の前で、家族に何か気の効いたことを話したとしても、あざ笑われそうで嫌だったのだ。
何かの点滴薬が腕に刺された。
「じゃ、ここに乗ってください」
誠一は自らストレッチャーに横になった。
病室を出た。
傍らに美代子と美奈が歩きながら付き添う。
誠一は流れる廊下の天井を見つめた。
ストレッチャーが大きな扉のエレベーターの前で止まった。
やはり何も言えなかった。
取り繕う言葉を言うことさえ、恥ずかしいと思えたからだ。
ただ、ずっと看護師の胸の名札を見ていた。
無言でブリーフとパジャマを引き上げる。
「今からストレッチャーを持ってきますね」
彼女は何事もなかったように出て行った。
程なくして、彼女は他の看護師一人を伴い、ストレッチャーを押してきた。
美代子と美奈も顔を出した。
なぜか二人の顔を直視出来なかった。
言葉も出てこなかった。
この若い看護師の手によって、恥ずかしくも射精してしまったのだ。
彼女の前で、家族に何か気の効いたことを話したとしても、あざ笑われそうで嫌だったのだ。
何かの点滴薬が腕に刺された。
「じゃ、ここに乗ってください」
誠一は自らストレッチャーに横になった。
病室を出た。
傍らに美代子と美奈が歩きながら付き添う。
流れる廊下の天井を見つめた。
ストレッチャーが大きな扉のエレベーターの前で止まった。
扉が開き、天井の風景が変わった。
わずかに顔を持ち上げ、扉の方を見た。
美代子と美奈が心配そうな顔をして立っている。
その二人の後方の壁際に、良子の姿が見えた。
良子は一度、微笑むと、小刻みに小さく手を振った。
頭を戻した。
扉が閉まる。
良子は、最後の女は私であって欲しいと、言った。
脇に立って、扉の方をまっすぐ見つめる彼女の胸の名札を見た。
下の名前は何と言うのだろう?
誠一は看護師に向かって小さく口を開いた。
そのとき彼女が右手の甲を、自分の鼻の前に持っていった。
すーすーと、何度か鼻から息を吸う音が聞こえる。
眉をひそめ、顔をしかめる。
誠一は、最後の女の名前を知りたかったが、口を閉じた。


2016/04/22(金) 07:41 短編小説 PERMALINK COM(0)
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