ふと目が覚める。
窓から午後の海風が入り、火照った体を気持ちよくすり抜ける。
ああ、あのまま眠ってしまったのね。
あなたも私の背中にぴったり体を寄せ、寝息を立てている。
お尻に当たるシーツが冷たい。
私たちが愛し合った証しがシーツを濡らしている。
まだ私の中からあなたのがあふれ出てくるがわかる。
私の胸を後ろから包むあなたの大きな手に、私の手を重ねる。
サイドテーブルに置かれた二人のパスポート、腕時計。
そのテーブルの向こうに大きな窓、その窓の向こうに見えるのはエメラルドグリーンの水平線と雲一つない青い空との二色だけ。
二人で訪れた南国の島。
その島の沖に浮かぶ三角屋根の小さな水上コテージ。
あなたは家族に出張と偽り、私は会社に季節外れの長期休暇を取り、ここに来た。
二人の念願の場所。
日常から切り離された島。
聞こえてくるのは波音だけ。
世界に二人しかいないみたい。
現実味がない。
でも私の体を包むあなたの体温は嘘じゃない。
あなたの手を握りしめる。
あなたが目覚める。
私の首筋にキスをする。
首を回し、あなたの唇をねだる。
キスをしながらあなたが覆いかぶさってくる。
もうここへ来て何度目だろう。
あなたがまた私の中に入ってくる。
舌を絡めながらあなたが動く。
ああ、幸せ……。
夢じゃないのね。
もし、夢ならば覚めないで欲しい。
そして、永遠に続いて欲しい。
ああっ!
高い声を上げる。
もう誰に気兼ねすることもない。
何もかも忘れて、あなたの名前を呼ぶ。
あなたも私の名前を呼ぶ。
二人同時にクライマックスを迎える。
もう何度目かわからない。
私の中がまたあなたで満たされる。
ベッドに沈み込む二人。
私の髪を撫でるあなた。
あなたの瞳を見つめる。
「このままずっとここでこうしていたい……」
「俺もだよ……」
「帰りたくない……ここで暮らしたい、二人で……」
「俺も……そうできたら幸せだろうな……」
「本当?」
「本当だ」
あなたがキスをする。
うれしい。
あなたも私と同じことを考えていたなんて……。
もう怖いものはないもない……。
「シャワーを浴びてくるよ」
あなたはそう言ってガラス張りの浴室に消えていった。
私は窓辺に向かう。
風が気持ちいい。
下を見るとカラフルな魚たちが何匹か舞っていた。
私は手に持っていたものをそこに放り投げた。
それはまるで二匹の真っ赤な熱帯魚のように波間を漂い、そして沖へ流れていった。
完
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