床がきしむ古いアパートの部屋。
襖一枚隔てた隣の部屋では小学3年生になる娘の頼子が眠っていた。
午後10時。
離婚して初めて出来た年下の彼。
一週間振りに私に会いに来てくれた。
力強く突き上げる彼の腰の動きに、思わず高い声が出てしまう。
襖の向こうを気にしながら口を手で塞ぐ。
頼子が起きてしまわないように。
襖は建て付けの悪さで、合わさり目に大きな隙間が出来ている。
「美智子、今日はいいだろ? 中に……」
「だめよっ、あっ、だめっ」
彼の動きが更に早くなる。
彼が終わりに近づいているのがわかる。
また襖に目をやる。
幼かった頃の記憶が断片的に思い出される。
あの時も私は今と同じような古い小さなアパートで、母親と二人で暮らしていた。
ある晩、私は、襖の隙間から母親が若い男としてるのを覗いていた。
母の上げる声に目が覚めたのだ。
狭い視野の中、母の脚の間に腰を打ち付ける男。
腰が波打つように動いている。
その動きに合わせるかのように、母の口から漏れる苦しそうな声。
でも、今、わかる。
苦しがっているんじゃなかったと。
母の両手が男の頬を挟み、下から口を押し当てる。
男が母の名を呼び、言う。
「恭子、いいだろ? 中に、な?」
母は喘ぎながら答えた。
「だめよ、だめ、今日はだめ」
男の腰の動きが更に早くなる。
母の細い体に太い腕が回り、二人の体が隙間なく密着する。
「あっ、だめよ! だめっ!」
会話の意味はわからなかったが、母は嫌がってる、子どもながらにそう思った。
母の広げた白い脚の間で、浅黒い男の腰だけが激しく動いている。
それが今も目に焼き付いている。
「外に、ね、外に出して」
母の腕が男の背中に回される。
「いいだろ? な? いいだろ、本当はお前も欲しいんだろ?」
「だめよ、だめだからね」
口を尖らせ、首を振る母。
男の顔がゆがむ。
「ああっ、いくっ!」
「だめっ! だめっ!」
母の声が震える。
「ああっ! いくぞっ!」
「ああっ! だめよっ! だめっ!」
母の首が激しく左右に揺れる。
母は嫌がってる!
苦しそうな顔をして嫌がってる!
「あああっ、出るっっ!」
「だめっっー!」
男が唸り、母が叫んだその時だった。
「お母さんっ!」
襖が左右に開いた。
「ああっ、頼子! だめっー!」
私は頼子の泣き顔を見ながら、彼が私の中で脈打つのを感じていた。
完
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