クリスマスを一週間後に控えた金曜日の夜。
イルミネーション輝く歩道を、あなたと歩いた。
行き交う人とぶつからないように、あなたの左腕にしがみついて。
束の間でも私には幸せな時間。
さっきまであなたの腕の中にいた私。
まだ、私の体の奥にあなたに愛された余韻が残っている。
うれしい……。
幸せ……。
あなたと過ごす初めてのクリスマス。
でも、クリスマスの夜に逢えないことはわかってる。
逢えるとしたら多分“イヴイヴ”の日。
イヴの夜は、あなたには、ケーキを囲み笑い合える家族が家で待っているから。
でもいい……今こうしてまたあなたと寄り添って歩けるだけで、私は幸せ。
あなたは不意に宝飾店のショーウィンドウの前で不意に立ち止った。
「ちょっと、覗いてみよう」
あなたが微笑みかける。
黙って、こくりと、うなずく。
扉を開けると、そこは、外とは別世界のように、光で溢れていた。
ショーケースを照らすライト、その光を反射してそれ以上に輝く宝飾たち。
私は物欲しそうな顔を見られるのが嫌で、あなたの手からそっと離れた。
ひとり店内を歩く。
あなたは一人でネックレスのショーケースばかり見ている。
そして振り向くと
「これなんかどうかな? 君の意見も聞いてみたいんだ……」
あなたはケースの中を指さし、私を呼んだ。
はやる心を押さえ、それを顔に出さないように、遠慮がちにケースを覗きこんだ。
小さなハート型のリングが二つ重なり合ったトップのネックレス。
「すてきね……」
あなたに微笑んでみせた。
「そうかな? じゃ、君みたいに若い子はゴールドとシルバーの色ではどっちの方がいいのかな?」
色違いで同じ形のものが、二つ並んでいる。
「若い子はシルバーの方が好きかな……」
シルバーの方を指差した。
ゴールドはおばさんぽいよ……。
そう言おうとしたけど、やめた。
代わりに「ゴールドは大人の女、って感じがして、若い子はあんまり身に着けないかな……」と、付け加えた。
“私”とは言わず、あくまで“若い子”の意見だと強調して……。
あなたはうれしそうだった。
「そうか……やっぱり君に聞いて良かったよ。うちの娘も君と同じ22歳なんだ……歳の離れた男の私ではやっぱりわからなくて……じゃ、こっちのシルバーの方にするよ……君はゴールドの方はどうかな? 君はもう大人の女だし……それに……」
あなたの声が徐々に遠のいて行った……。
ふわふわしたものが私の頬に当たる……。
覚えているのは、この店の絨毯は意外と毛足が長いんだ……ということだけだった。
完
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